ローカルから未来を変える——フィノバレーが描く地域通貨の挑戦とビジョン / フィノバレー代表 川田修平氏インタビュー(後編)
人口減少や地域経済の縮小、若者の都会への流出、そして地域コミュニティの希薄化——こうした課題が日本各地で深刻化する中、これに対する具体的な解決策を提案している企業がある。それが、株式会社フィノバレーだ。「地域通貨」を活用し、地域内でお金を循環させる取り組みを約7年前にスタートさせた。
この取り組みは、単なる経済活性化にとどまらず、地域経済とコミュニティを再構築する新たなモデルとして注目を集めている。そして、このプロジェクトを率いるのが、代表の川田修平氏だ。「社会に新しい価値を生み出す」という信念を胸に、反対意見や失敗に直面しながらも、地道な努力を重ね、地域に変化の兆しをもたらしてきた。
社会課題の本質を見据え、現状に挑み続けるフィノバレーと川田氏。その歩みの背景にある思いとは何なのか?地域通貨が生まれるまでの道のりと未来へのビジョンを、前後編にわたるインタビューで伺った。
▼前編
「地域経済の未来を支える、“地域通貨”への挑戦 / フィノバレー代表 川田修平氏インタビュー(前編)」
▼後編(本記事)
「ローカルから未来を変える——フィノバレー代表 川田修平氏が描く地域通貨の挑戦とビジョン / インタビュー(後編)」
ローカルにイノベーションを起こし、世界最高の企業になること
—— フィノバレーが掲げるミッションとビジョンには、それぞれどのような意味が込められていますか?
私たちのミッションは、「ローカルにイノベーションを起こし、 未来に新しい価値を生み出す、世界最高の企業になる」ことです。この中には大きく3つの意味が込められています。
まず、「ローカル」という言葉について。これは都会や地方といった地理的な概念を指しているのではなく、「グローバル」の対義語として捉えています。ローカルでは競争よりも秩序が重視され、お金や人材が集まりにくい傾向があります。そこで私たちは、ローカルでイノベーションが起きやすい仕組みや人々をつなぐネットワークを作り出していくことに取り組んでいます。
次に、「未来に新しい価値を生み出す」という点。私たちは価値創出を第一に考え、その結果として利益が後からついてくるという考え方を持っています。また、未来の世代にとって誇れる選択をすることが、私たちの使命だと考えています。
最後に、「世界最高の企業」という目標ですが、これは規模の大きさではなく、価値観と能力を最大限発揮できるチームを作ることを意味します。各メンバーが120%の力を発揮し、学び続けられる組織が理想です。そのためには、試行錯誤の中からどれだけ学びを得られるかが鍵だと考えています。
—— 掲げているミッションについても、具体的に教えていただけますか?
ミッションは3つあります。
1つ目は、「ローカル領域のイノベーターとしてトップ企業になる」こと。2028年までに「フィノバレー」の名が多くの人々に認知される存在となることを目指しています。
2つ目は、利益と社会貢献を両立するゼブラ企業を目指すこと。単に利益を追求するだけでなく、社会に貢献する姿勢が求められる時代において、私たちがそのモデルケースとなることが目標です。
そして3つ目は、持続可能な成長を支えるための安定した財務基盤の確立です。この基盤があれば、長期的な視点で事業を展開し続けられると考えています。
—— 会社として変化を続けることは簡単なことではないと思いますが、会社としてその難しさをどのように捉え、取り組んでいますか?
ゼロベースで物事を考え直すのは簡単ではありません。慣れ親しんだルーティンを変えることには抵抗も伴いますが、イノベーションを実現するには現状への挑戦が不可欠です。ただ、挑戦するだけでは行き詰まる可能性があるので、それを後押しする仕組みや環境の整備が欠かせないと考えています。
—— 2018年の設立当初から現在まで、会社の考え方や目指す方向性に変化はありましたか?
設立当初はビジネスの側面が強かったのですが、地域で活動する方々との出会いを通じて、彼らと伴走することの意義を強く実感するようになりました。昨年、私自身が高知に移住したことで、自分自身がローカルの当事者となり、新たな視点を得ることができています。現場での出会いや人々の想いに触れる中で得た学びが、フィノバレーを日々アップデートし続ける原動力となっています。
未来を見据え、挑戦し続ける組織を目指す
—— 組織作りをする上で、大切にしていることを教えてください。
義務感から動く「have to」や「must」ではなく、「やりたい」「知りたい」といった純粋な感情を大切にしています。私自身も興味やワクワクする気持ちに突き動かされてきた経験があるので、組織としても、メンバーが自然にチャレンジしたくなる環境作りを心がけています。
—— 社員の「やりたいこと」を引き出すために「20%チャレンジ」や「木曜日ディスカッション」を最近始められたと伺いましたが、これらを導入したきっかけや狙いは何だったのでしょうか?
「20%チャレンジ」と「木曜日ディスカッション」は、社員が未来に繋がる活動や関心を深める時間を持てるようにと始めた取り組みです。
「20%チャレンジ」は、労働時間の20%を将来に向けた仕事に充てる制度です。勉強や新しいアイデアの企画など、アウトプットの形は問わず、挑戦する気持ちやプロセスを重視しています。
一方で、「木曜日ディスカッション」は、毎週木曜日の午後1時から3時までの間に、意見交換や成果発表を行う場として設けています。テーマは自由で、20%チャレンジの成果発表や意見交換が中心ですが、最近では地域のコミュニティデザインに関心のあるメンバーが調査した内容を発表してくれることもありました。
—— これらの取り組みによって、実際に社員や組織全体にどのような変化がありましたか?
こうした試みがチーム全体に新たな刺激をもたらし、私自身も多くの学びを得ています。日々の業務に追われる中で、義務感だけで働いているとモチベーションが下がりがちですが、メンバーが主体的に考え行動する機会を増やすことで、意欲や創造性が高まっていると感じます。未来を見据えた挑戦を続けることが、私たちの組織作りの根底にある考え方です。
—— 現在、フィノバレーではどのような人材を求めていますか?
私たちが最も重要視しているのは、人柄の良さです。もちろん、コミュニケーション能力や表現力も重要ですが、私たちの仕事はお客様との関係性の中で価値を生み出す部分が大きいので、まずは信頼される土台として人柄の良さは欠かせません。
さらに、「自分の役割や立場を理解し、組織全体の価値をどう高めるかを考えられる人」を求めています。営業部門を持たない私たちにとって、プロダクトの質を高めることが最優先。その基盤を支えられる人材が必要です。
私たちのスタイルに合わない方もいるかもしれませんが、それは自然なことです。自分に合った環境で能力を発揮し、活躍することが大切だと考えています。
—— 現在進められている地域通貨のプロジェクトでは、地域住民や企業とどのように協力されていますか?
私たちは、お客様を単なる「買い手」としてではなく、同じ目標を共有するパートナーだと捉えています。一方的に要望に応えるだけでなく、共にプロダクトやサービスを作り上げていく関係性を目指しています。
特に自治体を中心としたお客様とは、横のつながりや情報共有が進みやすい環境が整っています。その結果、自然と良い評判が広がり、新たな問い合わせが増えるなど、相乗効果が生まれています。
地域との関係性を強化し、持続可能な仕組みを育てていきたい
—— 川田さんが考える、フィノバレーの他社にはない強みは何でしょうか?
私たちのサービスの主軸はシステム提供ですが、それ自体はあくまで手段に過ぎません。目指しているのは「持続可能な地域づくり」です。そのため、現場訪問やコンサルティング、問い合わせ対応など、通常外注する業務をすべて内製化し、現場の気づきを迅速にシステムに反映させています。
さらに、社会貢献と経済活動を両立するゼブラ企業である点も、他社にはない独自性だと感じています。この二つの要素が、私たちの強みであり、他社との大きな違いだと思います。
—— 最終的にはどのような地域の未来を描いているのか、また、その実現に向けたステップはどのように計画されていますか?
現在の仕組みをより安定・拡充し、提供する価値の幅を広げていきたいと考えています。現在、地域通貨は20地域に展開していますが、単なる規模の拡大ではなく、価値観を共有できる地域や仲間を増やすことを重視しています。価値観を共有できる地域が増えることで、新しい挑戦や事例が生まれる環境を作れると信じています。
また、地域団体やNPOが活動しやすい仕組みを整えることで、地域全体が主体的に未来を描ける持続可能な環境を目指しています。例えば、クラウドファンディングを活用した高校生のプロジェクト支援は、地域とのつながりや協力の大切さを実感できる貴重な体験。こうした活動を支える仕組みを広げていくことで、人々が共に課題を解決し、地域の未来を共創できる基盤を築いていきたいと考えています。